園長の本棚

「私の先生」
2022.09.13
むかし、ロバート・フルガムって人が書いた「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」という本を読んだことがある。その本には「何でもみんなで分け合うこと」「ずるをしないこと」「人をぶたないこと」「使ったものはかならず元のところに戻すこと」など、人として生きていくうえで、もっともなことが述べられていて、確かに私も幼稚園の先生に、そのようなことを教わったのを覚えている。

そんな私は、小学校入学時から高校まで、勉強が苦手で、学校の授業についていけず、フルガムさんが言う幼稚園で学んだことを除けば、先生に教わったことはほとんど何も覚えていないが、あの先生に言われた言葉だけは、今もしっかり覚えている。

それは、小学5年生の春だった。新学期を迎えて、異動で着任した先生は、私のクラスの担任になった。小太りで色黒、目はまん丸、頭のてっぺんが少々薄い短髪で、付いたあだ名は、名前の綿貫から「わ」を取って、たぬき先生。男子生徒から「わっ!たぬき先生!」と呼ばれても「誰だぁ~!」と朗らかに笑っているような先生だったので、生徒の受けはよく、勉強が苦手な私もすぐにたぬき先生が好きになった。

そして、私を含めクラスの生徒みんなが驚いたのは、先生が花好きだということだった。「人を外見で判断しないこと」とフルガムさんに怒られそうだが、誰がどう見ても「花が好きです」という言葉が似合うタイプではないが、たぬき先生が着任以来、学校の花壇には色とりどりの花が咲き、生徒や来校者の心を和ませてくれていた。

先生はなぜ、花が好きなんですか―。ある日、何かの話の流れで、そう尋ねてみた。「俺に花は似合わないと思っているだろ?」いえ、似合わないというか‥花より‥団子?って感じがして‥。いや、団子より‥やっぱり、たぬき?「コラ!誰がたぬきやねん!」と笑い飛ばしたあと、先生は急に真顔になりこう言った。

先生は、もともと花が好きだった訳じゃない―。先生は、君たち生徒が好きなんだ。それで教師になった。教師というのは、人を育てる仕事だが、口で言うほど簡単なことではない。だから最初は何をやってもダメだった。そんな時、ふと思ったんだ。人を育てる前に、花を育ててみようって。花を育てることができない教師は、人を育てることはできないんじゃないか―。もし、花を育てることができなかったら、先生を辞めよう―と。きっと一緒なんだよ。花を育てるのも人を育てるのも。そして、私の将来を決定するきっかけとなった言葉を発した。君は、勉強が嫌いみたいだが、花は好きか?「は、はい。たぶん」そうか、じゃあ一緒に花を育ててみないか。先生の手伝いをしてくれ。学校は勉強する場所だが、自分の好きなことを見つける場所でもあるんだ。勉強が嫌いでも、好きなことを見つけることができたら、学校が楽しくなるぞ。そして、それが将来きっと何かの役に立つ時がある。勉強なんかよりもな。

その後、数名の生徒も参加して、たぬき先生顧問の花壇部ができ、卒業する時には、校長先生から部員みんなに感謝状が渡された。先生と一緒に育てた花は数十種類、私は今、それ以上の種類の花に囲まれた花屋さんで幸せな日々を送っている。そして時々、心の中でこうつぶやく。「たぬき先生、先生に教わった勉強は覚えていないけど、あの時の言葉、今も忘れていません」「今の私があるのも、先生のおかげです」「本当にありがとうございました」
私は人生で必要なことを幼稚園の砂場と小学校の花壇で学んだのだ。
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