園長の本棚

「父の存在」
2022.04.23
~父の存在~

あれは朝晩の冷え込みが厳しくなり始めた11月下旬ごろだったと思う。その日の夜中に、のどの痛みで目が覚めて、薬を飲んで寝たが、翌朝には発熱してしまい、仕事を休んで療養することにした。

あらためてベッドに入り数時間後、どれぐらい寝たのだろうと思いながら時計を見ると、午後3時を過ぎていた。朝から何も食べずにいたので、さすがにお腹が空いた自分に気づき、重たい体を引きずるように台所に立った。

こんな時はお粥と梅干に限る。と思いながら、火をかけた鍋をボーっと眺めていると、突然、玄関のドアが開く音がした。「ただいまーっ」声と同時に、次男が学校から帰宅して勢いよくリビングに入ってきた。

「おかえり」と言った私と目が合うと開口一番「お母さんは?」という問いに「出かけた。兄ちゃんもまだだ」と答えた私の言葉を聞くなり次男がポツリと言った。「ふーん、じゃあ、誰もいないんだ‥」

―おいおーい―「誰もいないって‥‥。俺の存在はいずこへ‥?お前の目の前に立っている俺は幽霊か?―たしかに風邪を引いて、顔色も悪く、ぼさぼさの髪で突っ立てる姿は幽霊みたいに見えんでもないが‥」そんな言葉を飲み込んで黙っていた私に息子はさらに「で、何で‥お父さんがいるの?」と言ったので、一応は目に前にいる父親の存在には気づいているらしい。かなり薄っぺらな存在だが‥。しかし息子よ、風邪を引いて寝込むくらい弱り切った父親に「何でいるの?」はないだろ‥。人は弱った時にこそ自分の存在の大小を知らされるのか?‥と自責の念に駆られる。

「まったく、なんて日だ‥」とつぶやき深いため息を漏らす。するとそこでいきなり玄関のドアが開く音で目が覚めた。混乱した頭を整理するのに数秒かかりようやく「夢だったんだ‥」と気づく。同時に足音が近づきノックと共に「ただいまーっ」と言って次男が部屋に入ってきた。「お父さん、風邪、大丈夫?」「お‥おう、お帰り。何とか大丈夫だよ」と返すと「何も食べてないんじゃないの?もしそうならお粥か何か作るけど?」「す、すまない‥。ありがとう。お粥を頼む」そう答えた私の声は、鼻の奥がツーンとして、涙声になっていた。父の存在感‥。それは日頃からどれだけ家族を大事にしているかどうかに左右されるのだろう。私はこの時、あらためて家族を大事にしようと思った。

―人生には順風の時もあれば逆風の時もある。そのなかで自分の存在の大きさを知るのは順風よりむしろ逆風の時である。―
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