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- 「しあわせって」
- 2022.09.13
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後ろから急に抱きしめられ驚いて振り向いたら彼だった。「もうっ！何よ、いきなりびっくりするじゃない」しかも顔が近すぎだしキスでもする気？と思った瞬間「お前‥太った？」と言ってきた。「はあ‥⁈殴られたい？」「ごめんごめん、でも‥やっぱりちょっと太ったな」「バシっ！」「痛てーっ！」
徒然なるままにコタツに入ってテレビをつけたら、そんなドラマをやっていた。あ～いいなぁ、私もこんなコントみたいなお付き合いがしてみたい‥。っていうか、私も‥。いつの間にかこんなに太っちゃった。
あるデータによると成人女性のほとんどはホルモンバランスの影響で40～50代になると急に太るらしい。データ通りの私の場合、とくにお腹まわりとお尻がひどい。風呂に入るとき、パンツを脱ぐとあらわになる線の模様‥。それはまるで―縄文式土器だ。こんな私なので必然的に世の中でもっとも恐れている乗り物は脱衣所の体重計ということになる。絶対乗りたくないから体重計に愛猫の“ふーみん”の絵を貼っている。決して踏めない“ふーみん”の絵、ふーみん絵、踏み絵。な～んちゃって。
「ミャ～ン」おもむろに愛猫“ふーみん”が私の隣に寄ってきた。「ミャ～ン、ねえムーミン、こっちむいて」だれがムーミンよ、失礼ね。ってか、えっ⁈‥今、“ふーみん”しゃべった？しゃべったよね？私のことムーミンって。私、ムーミンじゃないけど‥。「そうニャン。わたし、実はしゃべれるの」ぎょぎょぎょえーーっ！そ、そーなの？びっくり⁈ 「ゴメン、びっくりさせちゃって。わたしの正体は猫の姿をした神様なの」か、かみさま‥なの⁈
「ねえ、ムーミン」‥ムーミンじゃないけど、なに？「さっき、コントみたいなお付き合いがしたい‥って思ったでしょう」そうよ。でも、それがホントにいいのかどうかわかんない。時々、しあわせって何だろう？って考えちゃう。ポン酢醤油のCM じゃないけど‥「しあわせって何だっけ何だっけ」って感じ。いっぱいあるようでないようでよくわかんない。
「そうニャンだ‥。あっ！それならムーミン、あなたの思い付きでいいからしあわせと感じることを何でもいいから言ってみて。神様のわたしが叶えてあげる」えっ⁈いいの？うふっ。じゃあ‥お言葉に甘えて。とってくれる？えっとその～‥ムーミンみたいなお腹とお尻のお肉。「手遅れです！残念だけど‥それは無理。もう手の施しようがない末期ニャンです」えーっ‥⁈末期ニャンって、人を末期ガンみたいに言わないでよ！しかも返事早すぎだし。
なんて神様なの。まったく。と呆れていると突然電話がなり画面を見ると母からだった。他愛もない話をして電話を切ると、私の目の前を“青い鳥”が飛んできてすぐ消えた。えっ、いまの何？どうなってるの？「魔法で出したニャ～ン」と“ふーみん”。何で鳥なの？ひょっとしてしあわせの青い鳥ってこと？
「そうだニャン。しあわせは願ったり求めたり探したりしなくてもちゃんと今、あなたのすぐそばにあるニャン。さっき、お母さんと話していた時、わたしと遊んでいる時、コタツに入ってテレビを観ている時、お風呂に入っている時、そしてケーキを食べている時、その全部がしあわせ。つまり日常の中に埋もれてしまいそうになるくらいのほんのちょっとした喜びをたくさん感じることができれば、それがいちばんしあわせってことだニャン」
ニャンだ、そういうこと。「ちょっとお！わたしの“ニャン”とらないでよ」気にしニャン、気にしニャン。私も気にしニャンことにした。もう体重計ニャンかこわくないわ。データがニャンだ。パンツの線がニャンだ。しあわせな女は太ることになっているの。そう、私はしあわせ太り。
田舎には盆暮れに帰省する私を心待ちにしている両親がいて、こちらでひとり暮らしをしている生活は平凡だけど“ふーみん”がいるから寂しくなんかない。そんな毎日こそが私のしあわせだと気づいた。
しあわせは過去でも未来でもなく今がしあわせと思える人がいちばんしあわせ。だって「しあわせはいつも自分の心が決める」って、“みつを”くんが言ってたし。平凡な生活の中にあるほんのちょっとした喜びにスポットを当ててハッピーな気分に浸る。それがしあわせへの近道ってことだね、ありがとう。“ふーみん”。
ご褒美だよ、じゃーん！ほら、またたび。「ミャ～ン」さてと、私はケーキでも食べよっかな。「開き直った女はさらに太るのだニャ～ン」何ですって！返せ、またたび。「ミャ～ン」まて、コラ！逃げるな。
コントみたいなお付き合い、それは私と“ふーみん”だった。そして、私のしあわせはやっぱり―今ここにある―。
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